Direct Bonding & Oral Design 「GCグラディアダイレクト」を用いた包括臨床 完結編
2014年2月1日 日本歯科評論掲載
はじめに
本誌2005年9月号(No.755,Vol.65(9):139-152)掲載の「ダイレクトボンディングとオーラルデザイン─「GC グラディアダイレクト」を用いた包括的臨床」(以下前編)、ならびに2006年2月号(No.760,Vol.66(2):131-144)掲載の同続編(以下続編)にて、ダイレクトボンディングの特性の解説とともに、ダイレクトボンディングを用いた症例の術式を、変色歯へのベニア、矯正とのコンビネーション、臼歯のインレータイプ、さらには前歯のダイレクトボンディングクラウン、とさまざまな症例をもとに紹介した。
本稿は、上記.編で紹介した症例の処置後8年間を経過したリコール時の状況報告であり、ダイレクトボンディングの審美性や機能性のみならず、耐久性、汎用性、利便性、安定性を検証することを目的として、改めて全4症例の現状について提示するものである。
ダイレクトボンディング症例の耐久性と経時的変化
日本においてダイレクトボンディングの普及が進まない理由は、コンポジットレジンの歴史が保険ベースの"充塡法"を基本としてきたために、"積層法"へのテクニカルな転換が臨床上推進されない点や、治療時間が細切れの臨床に長く親しんできたために、思うようにチェアータイムの確保がしづらい点など、さまざまな要因があると考えられる。しかし、おそらく臨床導入にあたって一番の懸念材料は、ダイレクトボンディングを自費診療で行う上で、実際「どの程度の耐久性が本当のところなのか見当がつかない」ということではないだろうか。
コンポジットレジンの歴史を振り返ると、充填法においてもすぐに摩耗し、脱落し、そしてすぐに二次カリエスに侵されてしまう......というイメージから脱却できないでいることも十分理解できる。また、このような過去の負の経験の少ない若い歯科医師にとっても、臨床研修の時期におけるダイレクトボンディングの実施経験が少ないことが影響していると思われる。
当時、筆者は最長20年を経てなお使用されている症例をいくつも確認しており、自身の症例においても10年の耐久性を確認していた。他の文献を考慮しても平均10年の耐久性を謳うことには全く問題ないであろう、と記した次第である。もちろん10年間全く同じ状態を維持し続けるということではなく、それは天然歯においても稀なことであるという前提を了解いただきたい。天然歯でさえ,全くメインテナンスすらしないで、色、形態、歯の位置、歯肉との関係、そして咬合に至るまで、同じ状態を何年も維持し続けることは不可能である。したがって、ここで言う「耐久性」の前提条件とは、それなりの定期的なクリーニング等のメインテナンスを受けてきていることである。
変色については、天然歯の変色と同様の着色、あるいは変色はある。しかし、クリーニングとともに回復し、光重合タイプのコンポジットレジンを用いている限り、化学重合タイプのコンポジットレジンのような経時的な変色はほとんどない。
形態的な変化についても、ブラキシズム等に伴う咬耗は他の天然歯と同様に当然起こり得る。しかし、それぞれの製品の機械的特性を確認すればわかるように、天然歯に比べてコンポジットレジンのほうが顕著にすり減るといったことは臨床上ほとんどなく、天然歯の解剖学的特性ときわめて類似した特性を呈しているため、歯列の中でやがて他の天然歯と一体化してくる。
歯の位置関係や歯肉との関係の変化に関しては、当然、顕微鏡を使用するか否かによる積層時の技術的完成度に影響される。もちろん矯正後の症例のように、歯列全体からくるリラップスなどの影響を一様に受けることは当然ながら免れない。
このように、天然歯が受ける経時的変化と同様の変化を除くと、ダイレクトボンディングは用途ごとにその特性を最大限に引き出しさえすれば、実に安定した持続的効果が得られるのである。
ダイレクトボンディングの汎用性と利便性
Ⅰ級~Ⅴ級窩洞の修復から、咬頭を含む窩洞、そしてフルクラウンタイプの積層修復に至るまで、審美的修復のみならず機能的修復を目的とした歯牙の修復、ならびに補綴に相当する処置に及んでほぼカバーできるのが、ダイレクトボンディングの特徴である。さらに、同時に保定を伴うケースや、ポーセレンとの接着が可能なことから、ポーセレンやセラミック系の補綴物や修復物のリペアにも応用可能である。
特に外傷によるⅣ級窩洞には特質的な効果を発揮し、小児期の外傷による修復には欠かせない存在である。軽い正中離開の審美修復や矮小歯の歯冠形態の回復、矯正終了後のスペースクローズ、歯周組織に対しては、ブラックトライアングル閉鎖のための歯肉誘導や歯肉ラインのレベリングなど、天然歯ならびにプロビジョナルにおいても歯肉との関係改善に一役買ってくれる。もちろん、歯周外科に伴うエマージェンスプロファイルの最適化など、歯牙のみならず周辺組織との関係改善に貢献する付加価値的修復も十分期待できる。
さらにプロビジョナルとしての応用については、矯正やフルマウスの補綴に先立つ長期的な包括的治療計画の中で、MIに則った大きな効果を引き出すことが可能である。
また、コンポジットレジンは年数が経っても、表面の適切な処理をすれば新たに積層していくことが可能である。たとえば、隣在の天然歯をホワイトニングすることでシェードが変化した場合、コンポジットレジンの一部表層を削り落として新たにマッチングしたシェードで再積層することができる、といった利便性は、特にリコールやメインテナンス時において有効である。
各社さまざまな工夫により多くの種類のコンポジットレジンが製品化されており、有機質複合材のサブミクロン球状フィラーを配合したもの、無機質のガラスのマイクロフィラーを配合したハイブリッド型のもの、さらに細かいマイクロフィラーを高密度に配合したハイブリッド型のもの、最近では有機質複合材のナノフィラーを無機質のガラスフィラーに混ぜ合わせたものなど、多種多様である.それぞれに特徴を持っているので、臨床では修復部位や歯冠の構造部位によって、さらに部位ごとにコンポジットレジンの操作性を考慮して使い分けることが決め手である。
欧米では、数社のそれぞれ配合の違う製品から自分の使いやすいものや機能性や審美性に優れたものを選んで、違うメーカーの製品同士を混ぜ合わせて使うなど、歯科医師はそれぞれのコンポジットレジン製品の特徴をよく捉えている。たとえば1歯の修復において、デンティン層はA社の製品で、エナメル表層はB社の製品、切縁のトランスルーセントを効果的に出すためにC社の製品を混ぜて修復するといったように、必ずしも各社が用意する基本セットだけで修復の全行程を施す必要はなく、製品の特性が修復する解剖学的機能性にマッチしたものを選ぶといった修復方法にまで踏み込んでいる。
なお、本稿や前編(2005年9月号)ならびに続編(2006年2月号)においては、「GC グラディアダイレクト」の基本セットを使用しての症例紹介であるため、同製品単独で修復を行っている。
咬耗した個々の歯の形態回復を視野に入れると矯正のゴールは変わる
ダイレクトボンディングの将来性として最も注目
すべき点は、矯正治療への応用である。
現状の矯正治療の多くは、矯正治療途中で直接修復したり歯冠形態を回復させたりすることがない限り、矯正診断時の歯冠形態のままで矯正治療が進められ、矯正治療終了時の各歯は矯正前の歯冠形態のままであることが多い。特にブラキシズムやそれまでの不良補綴物などにより、多数歯に及ぶ著しい摩耗や変形が認められるにもかかわらず、そのままの状態で矯正治療の最終ゴールを設定した場合、本来の患者固有の顎位を想定して術前ならびに術中にダイレクトボンディングにより各歯牙の歯冠形態を順次正常化させながら歯列矯正を進めた場合に比べると,まるで違ったゴールを得る結果となる。
既存の補綴物の歯軸方向において正常な歯冠の形態や厚みを付与したプロビジョナルを模型上で作成し、装着するのが理想である症例においても、必ずしも顎位と咬合を一度に理想的な状態に回復できるとは限らない。しかし、ダイレクトボンディングの"積層と削合を繰り返すことができる"という特徴を最大限に活用すれば、術前ならびに術中といった経時的な修復の繰り返し、つまり、少しずつ移動する歯牙に合わせて繰り返し時間をかけながら積層することにより、理想的な本来の歯冠形態に仕上げることが可能である。
歯列矯正が従来のように"ただ単に歯牙を移動させる"だけの治療にとどまらず、歯冠の修復処置を歯牙の移動に合わせて矯正期間中に順次繰り返すことで、矯正治療終了時点で歯列全体の顎位や咬合高径の誘導、そして本来の患者固有の歯冠形態をも合わせて調整ならびに回復させることが可能である。
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